日本における在宅療養の家族介護者は、妻や嫁などの女性がそのほとんどを占めており、家族介護女性たちのストレスフルな孤軍奮闘ぶりは1990年代の重要な社会問題となっていました。介護保険が施行される前年に行われた中村陽子さんらの都市における在宅死の調査では調査対象者の介護代替者不在率はすでに64.5%と高率でした。
しかし介護保険導入の年である2000年6月に実施された厚生労働省による介護サービス世帯調査によると、家族介護者と介護者のジェンダー(社会的性別)関係において、男性が女性を介護している世帯が17.3%、男性が男性を介護している世帯も2.2%となっています。つまり介護は、既に妻や嫁といった女性にのみに担われるものではなく、夫や息子といった男性にも担われるものになっていたことが分かります。ところが2000年に施行された介護保険の制度設計では無償の労働を担い得る妻や嫁といった家族介護者の存在がその前提として組み立てられていたのです。その後の制度改定が起こる原因の一つがここにもあったと言えましょう。
図1は2010年の厚生労働省に国民生活基礎調査の結果です。介護保険制度ができて10年が経過している時点ですが、介護の専門家に介護を頼っている数値は極めて低く、やはり家族介護者の負担が高いことが理解できますし、子の配偶者(嫁や婿)の比率よりも配偶者や子本人による介護が高い率となっています。
つまり、かつての家族の介護力とは、妻や嫁が経験的に行ってきた看護や看取りの作法や技術、知識であったわけですが、今や家族構成は大きく変容し、介護を無償で担っていた専業主婦率も低下しています。三世代同居率も低くなり、介護や看取りの文化を継承することは困難となったことが伺えます。まさに家族介護者は未経験の多様な家族介護者へと拡大せざるを得ず、しかも今後は夫や有業の息子による介護がさらに増加することが予想されているのです。2009年には男性介護者とその支援者のための全国ネットワークもできました。 ⇒ https://sec2.adam.ne.jp/~dansei-kaigo/mart/
図1 要介護者等からみた主な介護者の続柄
資料:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2010)
伝統的高齢者介護モデルが全国より5年早く現象している北海道の介護の特性を研究した北海道教育大学名誉教授の笹谷晴美さんは、施設介護への抵抗感が薄いこの地域でこそ、個別の世帯を超えた新たなケアシステムの構築が可能であることを指摘し、介護者の地域性を初めて机上に載せました。また介護保険制度にはない家族介護者に対する公的支援や、職に着きながら介護をしている者の増加を受けて、介護と仕事の両立を支援するワーク・ライフ・ケア・バランス政策の必要性を主張しています。
参考資料
● 中村陽子・宮原伸二・人見祐江・小河孝則「都市の在宅死と介護における医療福祉の課題」、『川崎医療福祉学会誌』川崎医療福祉大学 2000
● 厚生労働省 介護サービス世帯調査 厚生労働省大臣官房統計情報部 2000
● 笹谷春美 「北海道の高齢者介護-「介護の社会科」・「脱ジェンダー化」は進んだか」『北海道社会とジェンダー』明石書店 2013